2016年4月27日水曜日

『地方議員の逆襲』逆襲するのは誰か?議員定数を議論する前に確認すべきこと

議員定数、大変難しい問題です。
基準があるわけではないので、それぞれの自治体がどうあるべきか議論して決めていくしかありません。
とはいえ、土台がなければどこから考えていいのかわからないのが実態です。
そこで今回は、一冊の本を参考にしながら考えてみたいと思います。

❏ 求められる役割が変化している地方議会


この3月に講談社現代新書から出版された『地方議員の逆襲』、著者の佐々木信夫氏は地方自治が専門の行政学者であり、都構想で話題となった大阪市特別顧問をされていた方です。


かつての自治体は、国から都道府県、市町村という上意下達の指揮系統のもと仕事をしていたため、自分たちで何をすべきかあまり考えなくてもすんでいました。
しかし地方分権が進んでいる昨今、自分たちで決められる裁量が大きくなっていますから、地方議会に求められる役割も変化しているという前提を示します。

ところが実態は、様々な不祥事や巨額の報酬や政務活動費、なり手不足など数多くの問題を抱えています。
機能する地方議会こそがこれからの日本のあり方を占う民主主義の根幹であるとし、大きな期待を寄せるものとしていくつか提言を示します。

❏ これからの議会のあり方と問題点


まず実態として、特に小さな自治体の議員の多くは自身の役割を「地域の世話役」と認識しているそうです。
今は「政策の立案・審議」が期待されているところに現実と理想のギャップがあるわけですが、あらためて議員の仕事を4つの役割として整理しています。

決定者:予算、条例、重要な契約といった公共政策を決定する
監視者:決定後の執行について監視統制する
提案者:政策を一般質問や議員立法で提案する
集約者:住民に報告して意見を求め、要望を集約する

こうした役割が今の地方議会が果たせているかと問うた時、すべての議案が無修正で通過するオール与党化議員提案がほぼ皆無であること、議会報告会が開催されないなど、現状では果たせているとは思えないとしています。

そこにも様々な原因はあるのですが、議会の現状を知った住民から政治不信や無関心を招き、新しい候補者が現れない悪循環が起こっています。
その根本的な原因である報酬や定数といった制度の抜本的な議論は、落選が怖い議員自身にとって難しいと指摘します。
そして、そもそもこの地方議会という草の根民主主義が根付かない要因として下記のように整理しています。

1.議員の待遇が低すぎる
2.会社勤めでは立候補できない
3.男性社会であり女性が参入する障壁が高い
4.4年ごとの落選(=失業)リスクは若年・中年にとって大きい

こうした状況をどうすべきか、いくつかの提言をされています。

❏ 地方議会を変える提言とは


まとまっているわけではないので、私なりに抽出してみます。

1.地域法制局の設置

聞き慣れない言葉ですが、要するに議員立法を増やすため、条例作成のお手伝いをする法律の専門家を擁する機関設置を主張されています。
法律にあまり精通していない議員でも、すでにある条例との整合性の調査や審査を補助してもらえれば議員立法の可能性が高まります。

2.政務活動費の増額

都道府県や政令都市ではかなりの金額がつく政務活動費ですが、市町村では少額ないし存在しません。
しかしこれからの議員の仕事を政策立案を主とするためには必須のものであり、むしろ増額すべきと主張されています。もちろん使途の透明化が大前提です。
あわせて労働対価のような不透明な月額報酬はやめ、原則として議会当日の実費弁償程度の支払いとすべきとしています。

3.無投票当選制度の廃止

無投票では住民の代表を選んでいるとは言えず、政治性正当性が担保されていないとし、無投票当選自体を無効とする制度にすべきと述べています。

4.議会基本条例の制定

策定する自治体が増えている議会基本条例ですが、これを全自治体でつくるべきとしています。

5.議員のなり手を増やす施策

様々な問題がある地方議会ですが、そもそもなり手がいないという根本的な問題を孕んでいます。これを解決するための提言もありました。

① 土日・夜間開催

国民のほとんどがサラリーマンにも関わらず、そのサラリーマンが議員になれない状況を解決する手段として土日・夜間の開催を提案しています。

② 年齢枠や女性枠の設置

中高年の男性が多く、民意が適切に反映されていない現状の改善策として、年齢枠や女性枠を用意すべきと主張されています。
海外ではクオータ制度とも呼び、構成員や立候補者の内、◯%は◯十代、☓%は女性などと割り当て、民意の平準化を狙うものです。

③ 二院制

広域で大きな自治体の場合という条件付きですが、少数精鋭の常勤である「参事議員」と市民感覚で判断する多数の非常勤の「一般議員」のふたつに分ける方法を提案されています。
参事議員は平日にも徹底的に議論する一方、一般議員はあくまで本職が別にあり、実費弁償のボランティア活動として土日や夜間に参加してもらう形です。

この後、ご自身が関わった大阪都構想への考えが記されますが、提言の概要としては以上です。
いかがでしょうか。

❏ 『地方議員の逆襲』が目指す議会像と問題点


一読してみると、氏が理想とする議会像が浮かび上がってきます。
つまり、従来のような執行側からの提案に対して意見するような「受動的な議会」ではなく、自らが率先して問題点を整理して議論し、執行側に要求していく「能動的な議会」という方向性です。
おおまかな方向性として賛同できますし、たくさんの実践的で有用な提言もあって大変参考になりました。

ただし、指摘している問題点と提言内容の食い違いや解決策として不十分な部分もみられます。
その要因のひとつは、都道府県議会と市町村議会の問題を一緒に論じてしまっているからではないでしょうか。

例えば、理想とする議員の働きは常勤が必要に思えるのですが、報酬は議会当日の実費弁償のみを想定するような矛盾がありました。
その解決案として二院制を提案しているのでしょうが、それはあくまで都道府県のような自治体を想定した提言のようです。

また様々な立場のひとが立候補できることは大事なのですが、農村部では都市部ほどサラリーマンが多いわけではないですし、女性や若い人が出にくいのは地域特有のしがらみがあるからでもあります。

❏ 浦河町として考える議会像


では浦河町の場合、どう考えればよいでしょうか。
二院制について一考の余地はあるかもしれませんが、私はまずふたつの方向性のうちどちらを選択するのかという問題だと思っています。

つまり、従来通りあくまで兼業で執行者のチェック機能を主とする「受動的な議会」のままでよいか?
あるいは時代にあった議会へ生まれ変わる方針をはっきりと打ち出し、生活可能な労働報酬を保証した常勤の議員が政策を提案する「能動的な議会」を志向していくのか?

私は必ずしも後者が良くて、前者が悪いという話でもないと思います。きちんと機能すればの話ですが。
単に住民が議会をどういう機関と定義するかの問題だと考えています。

いずれにせよ、住民の期待する仕事と実際の仕事を一致させるためにも、また議員間で共通認識をもつためにも、その確認は欠かせないと思います。
報酬や定数の議論をするにも、その前提となる共通認識が必要です。

また、議会ももちろんですが、住民のみなさんもこの問題を考えていただきたいと思っています。

と言うと、こういう声が聞こえてきそうです。

「それは住民の代表である議員が考える問題で、責任転嫁ではないのか?」

いいえ、それはちょっと違うのです。

❏ 本当の自治は住民の理解促進から?


本書では、地方議会の変革においては議員自身が変わることに期待しており、それももちろん大切で必要なことです。
しかし一方で、議会に議員を送り込んでいるのは他でもない住民自身だということも忘れてはいけません。

問題点を指摘するのは簡単ですが、議会の制度を決めるのは議会であり、その議会で議論する議員を決めるのは住民です。
散々な言われようの議会の現状ですが、少なくともそれを許している住民がいる現実は無視できません。
もしその現実を変えるのであれば、問題を認識し、解決のために働きかけなければならないはずです。
では、どうすればよいのか?

黙っていても、不満を言っても、優秀な議員が突然現れるわけではありません。
現状を変えたければ、直接議員に向き合って働きかけるか、あるいは自分たちで別の議員候補を養成し、議会に送り出さなければなりません。
地道ではありますが、それが本来の自治の姿だと思います。
投票だけが参政権ではありません。

こうして考えてみると、住民が自治や政治の仕組みを学ぶ場づくりこそが必要な施策なのかもしれません。

地方議員の逆襲 (講談社現代新書)
佐々木 信夫
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