2016年2月5日金曜日

JR北海道は全路線が赤字、日高線復旧をどう考えるか?

運休中のJR日高線をめぐる問題はなかなか進展せず、むしろ8億円の追加費用が見込まれ対策費は累計38億円とされています。
昨年10月31日に開催された「JR日高線問題を考える会 in 浦河」にも伺いましたが、まだわからないことが多すぎて、いまだに考えがまとまりません。

被害状況の議員視察(豊郷・清畠間)

さてそんな中、JR北海道が全路線の営業損益や営業係数を公表しました。

- 道内全区間で赤字 JR北海道が営業係数公表(北海道新聞)


民営化後のこうした数字の公表は全国でもはじめてだとみられています。
せっかくなので確認しておきます。

※ リンク切れが予想されますので、データを転載されている旅行総合研究所タビリスの記事も紹介(輸送密度ランキング営業損失ランキング)します。

❏ 注目すべきは重要路線の多額の赤字


注目すべき点としては、従来は稼ぎ頭とみられていた札幌近郊の路線も含みすべて赤字であったことと、過疎地域よりもむしろ都市部等の重要路線の方が大きな赤字を生んでいることかと思います。

例えば、日高線は100円を稼ぐ費用に1,179円もかかっています。
周知の通り、完全な赤字です。
しかし札幌近郊でも107円の費用がかかっているのです。少額でも走れば走るほど赤字。しかも本数は日高線よりずっと多いです。
この積み重ねの結果、日高線の赤字は年間で15億円ですが、札幌近郊の赤字は26億円なのです。

ここから言える日高線沿線住民にとって大事なことは「JR北海道は営利企業だから(日高線のような)赤字ローカル線の廃止はやむなし」と言われる筋合いはないという点ではないでしょうか。

つまり、不採算路線が廃止ならば札幌圏含むすべての路線が不採算ですし、それを言うなら赤字の大きな路線から廃止しなければなりません。北海道新幹線だって当面は赤字です。
これを突き詰めて言えば、JR北海道の存在意義がなくなってしまうのです。

「どの路線も赤字ならいっそJR北海道、廃止しますか?」
そんな話にはならないはずです。
なぜかといえば、鉄道は公共財だからですよね。

同じようにJR日高線沿線の住民も「赤字だから廃止という話にはならない」と胸をはれます。
当たり前かもしれませんが、これは重要なことです。
鉄道は公共性のある事業であり、採算だけでは語れません。

❏ JR北海道はどのように赤字を補填しているか


それにしても今回あらためて不思議に感じたのは、JR北海道は巨額の赤字をどのように補完しているのかということでした。
北海道新幹線は3年間で年平均48億円の赤字と言われていますが、そもそもすでに鉄道事業で年間400億円の赤字を計上しています。

少し調べてみると数年前からJR北海道の財務について詳しく言及している方がいました。

- JR北海道とJR四国は経営自立できるか(fromFC)


詳しくはご覧になって頂きたいのですが、簡単に要約します。
JR北海道は「経営安定基金」と呼ばれる約7,000億円にのぼる基金を保有していて、主にその運用利益で赤字を補填しています。

この基金はもともと国鉄から民営化の際に「JR北海道は単独では黒字がムリだから、その資金を運用して活用してね」ということで国から預かったお金です。
1987年当時はバブル真っ最中ですから、4%の金利は当たり前だったのです。
その高金利による利息収入(300億円!)をあてにしていたのですね。

過去この基金の多くは「鉄道・運輸機構」という組織へ4%で貸付けされていました。実は今もされています。
昨今そんな金利、どこにもないですよね。見込み違いだったのです。
でも現にそんな高金利なのです。

なぜそんなことが可能なのかといえば、この組織はJR北海道の全株を保有する株主=元をたどれば国鉄=国だからです。
つまり、この信じられない金利というのは、実質的には国からの補助金です。
民営化といいつつも実質的には国営だったと指摘されています。

ところで、ここで「国営だった」と過去形なのは、この状況が変化しているのです。
10年前は5,000億円以上あった鉄道・運輸機構への貸付けは昨年度末で650億円へと激減しています。利息収入も38億円になっています。※
では、この7,000億円(現在は時価8,000億円)の基金を今はどう運用して400億円もの利益を確保しているのか。

その肝心なところはわからないままです。

何らかの投資運用で得ているようですが、いずれにせよここから言えることは、国は本格的にJR北海道に経営の自立を迫っているということです。
特別債権や助成といった別の形での補助もありますが、いずれも時限措置であり、国は徐々に手を引いているという認識で間違いなさそうです。

※ JR北海道鉄道・運輸機構の財務諸表はダウンロードできます(リンク先は2015年3月末の財務諸表)。

❏ 日本、そして地域における鉄道の公共性とは


ここまでを整理すると、矛盾があることに気づきます。
つまり、不採算事業を運用するJR北海道に自立経営が求められているという状況です。
言い換えれば、採算がとれない公共事業であるにもかかわらず、公的支援は縮小されているのです。

これは民営化の宿命なのかもしれません。
それならばJR北海道の経営努力も必要でしょう。
しかしどうあがいても赤字であり、JR北海道に別の事業の利益で補填してもらうか、国が補助するかの違いしかありません。そしてどちらも厳しいとして沿線自治体の負担を迫っています。

国の言い分をまとめると「もう鉄道は公共性が低くなってきたからお金出せないし、それぞれの会社で儲かるように工夫してやってほしい。それも難しいなら地域でなんとかしてよ」ということのようです。
この点を深掘りすると、私がまだ2歳(!)だった頃の国鉄民営化の話になってしまうので今はおいておきます。
とりあえずこの現状認識の上で、これからのことを考えなければなりません。

これからの時代、鉄道という公共財をどう維持していくのか。
そもそもこれからの日本において、地方において、鉄道の役割とは何なのか
そしてそのための公金支出は、現在のあり方と方向性で妥当と言えるのか
こうした根本的な問いに立ち返ってきました。

採算がとれない以上、復旧してもその維持経費はいずれにせよ将来世代の負担になります。「ないよりあったほうがいい」という話ではありません。
JR北海道や国に対して鉄道の公共性をしっかりと訴える一方、地域としても公共交通全体における鉄道の位置づけを議論する必要がありそうです。
もっと踏み込んで言えば、自分たちの地域の将来の交通のあり方はどうあるべきなのかを考えなければならないということかと思います。

なかなか難しい問題ですが、現状で自分なりに調べたことを整理しました。
みなさんの考えをお寄せ下さい。